マイハビッツ〜理想の自分になるために〜

Webライターが「理想の自分になる」ことをテーマにしたブログを執筆します。

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僕を見つけて

今日は少し、小説っぽく文章を書いてみようと思う。

 

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僕を見つけて

誰も見ていない僕の姿を、探してみてほしいんだ。

遠くから眺めてくれる人がいるのなら、きっと人生は変わっていく。

そう思う気持ちの片隅に、寄り添うことができたなら。

 

「誰か…」

 

あの日の夕暮れはきれいだった。

夜になる瞬間は、朝になる瞬間よりも素敵に見える。

闇の中に一人だけ、僕がいたとしても誰も気づかないのに。

 

小学生になって、友達がたくさんできた。

サッカー部に所属していた僕は、人気者たちのそばで笑っていたんだ。

女の子から声をかけられることも多くて、中には本気で告白してくれた人もいた。

当時の僕には恋愛感情なんてわからなくてさ、少ない言葉の中で言ったんだ。

 

「ごめん」

 

たった、それだけしか言えなくて。

相手の子の気持ちなんか、考えることもできなくて。

同じクラスだったその相手の女の子。

次の日から、不登校になったんだ。

 

中学にあがっても、彼女は学校に来なかった。

僕たちが通う中学校は、ほとんどが小学校からの持ち上がり。

少し転校生が来るくらいで、ほとんどが同じ面々なんだ。

 

だからその子が学校に来ないのは、もう「普通」になっていた。

 

ただ、僕の心の中に少しだけ。

罪悪感という気持ちを残したままで。

 

もしも時間を戻すことができるなら、子ども時代の罪悪感を消すことはできるだろうか。

もしも彼女を好きになれていたとしたら、

 

僕は付き合っていたのだろうか。

 

忘れもしない、小学6年生だったんだ。

 

罪悪感は、人の心の方向性を変えてしまうようだ。

僕は女子たちと会話をしなくなり、男子の中でも浮いた存在になった。

 

気づけばボッチ。

 

サッカー部に所属していたものの、どうも周りの空気になじめなくなっていた。

それでも周囲の誰よりも、サッカーが上手いと言われたこともある。

プロを目指せる力があると言われたこともあったんだ。

 

そのままサッカーを続けていたとしたら。

僕はプロになれているのだろうか。

 

サッカーを辞めたのは高校1年。

冬の新人戦が終わり、13年連続優勝の強豪校に入っていた僕。

僕たちの世代で、優勝は途切れた。

 

終戦の日

僕は足がつったんだ。倒れこんで走れなくなり、すぐに交代を命じられた。

 

あの日、僕の足がもう少し強ければ。

試合の最後まで、走りとおせるだけの体力があったなら。

まだサッカーを続けられていたのかな。

 

サッカーを辞めてから、何もすることがなくなった。

家に帰ってテレビを見ても、なにも面白くなかったんだ。

 

帰宅時間は早くなり、夜になる前の夕焼け空を

ゆっくり眺めて帰る日々。

あの日の夕焼けは、本当にきれいだったんだ。

 

高校3年生になっていた。

受験も近づく9月の終わり。

 

僕は進路に迷ってた。

やりたいことなんてなかったからさ。

 

それでも勉強は全国で3000番くらいになることができて、

一般的な大学なら受かると言われてたんだ。

 

勉強なんて、やることをやればできるんだ。

うぬぼれでもなく、誰かをバカにしているでもなく。

 

ただ、その勉強に意味を見出せるかどうかだけ。

僕がおこなった勉強は、ただの暇つぶしだったから。

 

成績はとれていたとしても、なんの意味もなかったんだ。

自分の将来のために勉強すると聞いたことはあったけど、

実際に勉強してみて思ったことがある。

 

勉強しても、あの罪悪感の解消法はわからない。

 

できることなら、誰かを傷つけずに生きたいものだ。

そう思いながら、大人になった。

 

気づけば学習塾の講師をしていて、勉強を教える立場になっていた。

ある学年の最初の授業。

僕は言ったんだ。

 

「勉強なんて、やりたくなければやらなくていい」

 

帰宅した生徒の親から電話をもらい、ひどく怒られたっけ。

学習塾に行かせているのに、どうしてそんなことを言うんだって。

 

弁解なんてするつもりはないけれど、

勉強した人だけが知っていることがある。

 

勉強って、したい人がするもんだってこと。

 

勉強する気が無い人が、勉強しても意味がない。

だって、僕がそうだったから。

 

勉強を使って大学に行く。

それも良い理由だと思う。

 

将来をより良くする目標を達成するために、勉強が必要ならすればいい。

学習塾で勉強しても、最終的には生徒が努力しなければいけない。

 

講師がどれだけ良いことを言ったとしても、響かなければ意味がない。

だからね、言ったんだ。

 

「勉強は手段だ。ゴールに向かう道具でしかない。」

 

ゴールを見失っているなら、あがけ。

 

人生のゴールがあるのだとしたら、それはきっと命が尽きるその日のことだ。

勉強がゴール地点を指し示すなど、今でも微塵も思えない。

 

だけど、やっぱり夕焼けはきれいなんだ。

大人になった今、僕ができることがあるのだとしたら、

 

それはきっと、ゴールが来る前に何かを残すこと。

仕方ないよね。

 

僕はあの子を傷つけた。

学校に来ることもできないくらいに、あの子を傷つけたのだから。

 

実は大人になってから、約20年ぶりにあの子に会うことがあったんだ。

運命ってやつは、本当に何をしでかすかわからない。

 

スーパーでの買い物途中。

お菓子コーナーを通り過ぎ、レジに向かおうとした瞬間だった。

 

目の前に来た女性とぶつかったんだ。

 

「あ、すいません」

 

急いで僕は謝罪した。

 

「あれ?もしかして…」

 

あの子は大人になっていた。

小学生のときとは違うから、僕は気づくことができなかったんだけど。

 

名前を呼ばれ、告白したとつげられた。

 

「あ…」

 

声を発することができなくなって、また心の中で「ごめん」って言いそうになった。

でも、次の瞬間に彼女は言った。

 

「あの日から不登校になって、夜の街で働いて。気づいたら需要もなくなって、おばちゃんになっちゃってw」

 

「同い年じゃん」

 

「まぁそうだけどさ。でも、忘れたことなかったよ。ありがとう」

 

 

感謝の言葉の意味が、僕にはわからなかった。

どうして、僕に感謝の気持ちを示すのか。

 

罪悪感を感じたのは昔のことで、正直なところ今まで君のことなんて忘れてたのに。

 

ありがとうって…。

 

二人で一緒にレジに並んで、順番待ちをした。

話す内容が浮かんでこなくて、無言になった。

 

順に会計が済み、別れ際に彼女は言った。

 

「またね」

 

その後、彼女と会うことはなかった。

その日の帰り道、

 

僕は久しぶりに夕焼けを見た。

 

そういえば、しばらく空を見てなかったな。

 

果てしなく続く空の下、

出会った人々には、それぞれの人生があって、きっと僕の人生も同じようなもの。

 

僕は確かに、あの子の人生を変えてしまったのかもしれない。

でも、あの子は笑顔で言ったんだ。

 

ありがとうって。

 

それなら、今度またどこかで会うことができたなら、

今度こそ、ちゃんと伝えないといけないな。

 

僕のほうこそ、

 

ありがとう。